読み聞かせしながら、考える。

読み聞かせボランティアで読んだ本の紹介と活動のなかで考えたことを綴ります。

サトシンさんという絵本作家さん

絵本作家のサトシンさん、といってもピンと来ない方も「『うんこ!』の作家さん」と言えばみなさん「あ〜〜〜〜」と仰います。このブログでもサトシンさんの『ま、いっか!』を紹介したことがありました。

 

うんこ!

うんこ!

 

 (読み聞かせに持っていくと必ずウケる絵本「うんこ!」低学年の男子はかなりの確率で「くっそーーー!」って一緒に言ってくれます。)

 

そのサトシンさんが先月、熊本震災被災地を巡る弾丸ツアーを敢行され、一日に何か所も回るなかの1ヶ所に子供たちを連れて参加してきました。

 

作品を読んでくださったり、それぞれの絵本についての解説や裏話を聴かせてくださったりと楽しい時間を過ごすことができました。子供たちもまだ読んでいない絵本を読み聞かせてもらったり、持参した絵本にサインをいただいたり、サトシンさんの持参されていたうんこ帽子を被って写真を撮ったり、サトシンワールドに魅了された数時間でした。

 

お話の中で、私がサトシンさんの絵本でなんかいいなぁと思っていたことをまさにご本人が仰っていたんです。結末があってちゃんとお話が終わってるんじゃなくてただおもしろいだけで終わる絵本があってもいいんじゃないの?って。大人が意図する終着点がない絵本が結構多いんです、サトシンさんの絵本。

 

子ども向けの絵本って教訓めいたお話だったり、こういうメッセージを受け取ってほしいなぁという大人側の下心が見え隠れするものだったりするの、結構多いなぁと思うんですね。指導のためにそれらを「あえて」読み聞かせること自体を否定するつもりは全然無くて、敷居の低いものを利用してメッセージを伝えやすくするためのツールとしての絵本というのも一つのあり方だと思う。

 

でもそういう結論ありきみたいな絵本ばっかりだとつまんないなぁ、と思っていた私にとってサトシンさんの、ただただおもしろいだけで本当におわっちゃう絵本の存在ってとても新鮮でした。

 

ただ新鮮だっただけじゃなくて、小さい頃に絵本を楽しんでいたときのような、一部に強烈な印象を持って何度も読んでいたりというような、絵本の持つメッセージ性ガン無視でただただ絵本を楽しめば良いと言ってくれているような絵本、それがサトシンさんの作品の中にはあるような気がします。

 

今日はそのなかで読み聞かせに使いやすそうな絵本をご紹介。

いぬが かいたかったのね

いぬが かいたかったのね

 

 まずはこれ「いぬがかいたかったのね」

「ツレがウツになりました」の細川貂々さんのイラストがかわいい絵本。

わらしべ長者のようにペットをだんだんととりかえっこしていって、最後には…

 

ページをめくるたびに新しい生き物が登場して、そしてだんだんエスカレートしていって、子どもたちがどんどん世界観に吸い込まれていくような絵本です。

 

テンポがいいといえばこちらも。「うそだぁ!」

うそだぁ!

うそだぁ!

 

 ほら吹きの男の子のうそがどんどんエスカレートしていく絵本、合いの手をいれるもう1人の男の子の「うそだぁ!」っていう台詞を一緒に言って〜って促すとみんな喜んで参加してくれます、こちらも低学年向けに好評な絵本。

 

最後はちょっと例外。結論っぽい絵はあるんだけど、触れられていない絵本。

ゆけ! ウチロボ! (講談社の創作絵本)

ゆけ! ウチロボ! (講談社の創作絵本)

 

「ゆけ!ウチロボ!」

こちらは少し年齢が上がった学年の子たちにも良さそうかなと思います。先日は5年生の教室で読みました。

男の子同士のケンカについてのお話。ひそひそ話の感じとか教室の雰囲気のリアリティがすごいなぁと思います。

 

この絵本、結末は絵本の中では語られていません。余韻を残した、ちょっとカッコいい映画のような最後のページの絵、ポスターにして飾りたいなぁとこっそり思うほど好きです。ちなみに絵を担当したのは『給食番長』のよしながこうたくさん。

給食番長 (給食番長シリーズ)

給食番長 (給食番長シリーズ)

 

 

よしながさんとサトシンさんのタッグは『でんせつのきょだいあんまんをはこべ』も名作ですね。 

でんせつの きょだいあんまんを はこべ (講談社の創作絵本)

でんせつの きょだいあんまんを はこべ (講談社の創作絵本)

 

 BGMに「地上の星」を流しながら読みたくなる一冊です。

こちらはオチはちゃんとあります、が教訓めいたメッセージ性はゼロです 笑

最後のページに添えられた註釈がサトシンさんの人間性が出てるな〜って感じがして好きです。

 

さいごにおまけ。

サトシンさん、NHKの「みいつけた」の中の「おてて絵本」を提唱されているご本人でもありました。あの放送でも流れていないところでサトシンさんご本人が子どもたちのそばでおはなしを引き出す声かけをされているんだそうです、知らなかった〜!

おてて絵本普及協会

きいてね!おてて絵本

きいてね!おてて絵本

 

 

 

最近気に入っている絵本いろいろ

「このあと どうしちゃおう」

先日、こっそり(でもないか)公開しているほしいものリストよりまた一冊絵本が届きました。

敬愛するヨシタケシンスケさんの新刊

このあと どうしちゃおう

このあと どうしちゃおう

 

 

亡くなったおじいちゃんの残したノートの表紙に書かれていたのは「このあとどうしちゃおう」という文字。ノートの中に描かれていた、死を前にしたおじいちゃんの色んな気持ちに、ぷっと笑ったり、いろいろ思い出してじわっときたり。

 

子供にとっての死、大人にとっての死、年寄りにとっての死……

子供たちが小さい頃に義父を亡くした私にとっても色々と考えさせられる内容。ヨシタケさんのこの手の哲学シリーズ(「りんごかもしれない」「ぼくのニセモノをつくるには」)は絵の註釈のような細かい描写が多いので教室で大人数での読み聞かせに使うには少し読みづらいかもしれませんが是非子供たちにゆっくり、何度も読み返してほしい本。図書室に入れてもらえるよう司書の先生にかけあってみようと思っている一冊です。

りんごかもしれない

りんごかもしれない

 
ぼくのニセモノをつくるには
 

 

「ま、いっか!」

「うんこ!」で子供たちにおなじみのサトシンさん。サトシンさんの名前を覚えてない子たちにも「『うんこ!』描いた人だよ」と言うとみんな「あ〜〜〜!」っと声を上げるほど。

 

そんなサトシンさんの作品のなかで私が一番好きなのが「ま、いっか!」

ま、いっか!

ま、いっか!

 

 主人公はその名も「テキトーさん」、実写化するなら高田純次さんしかいないんじゃないかと思わせるその適当すぎるキャラクター。失敗を繰り返して、それでも「ま、いっか!」と前に進み続けるテキトーさん。

 

これ、発達障害の知識がある方が読むと注意欠陥の特性が見えるのは仕方がないことなのかもだなぁ。「ま、いっか!」という言葉は、同じように注意欠陥が強く忘れ物や失敗をしやすい私が意識して出す言葉でもあります。失敗したらそのダメージをずっと引きずってしまいがち、そんなときに呪文のように「ま、いっか」「しょうがないね」「次があるよ」と自分に言い聞かせることがあります。

 

学校のなかでは、失敗を「ま、いっか」って流さず次への学びに反省に、と強いられているように見える子供たち。でもそればっかりだとしんどいよね。どう頑張っても難しいこと、どうにもならないことは「ま、いっか!」って流して次に進んでもいいんじゃないかなぁと、おばちゃんから子供たちへのささやかなメッセージを込めて。

 

ページをめくるごとに「ま、いっか!」って言葉が出てくるので子供たちもだんだん一緒に言ってくれるようになったりします。先日の読み聞かせでは最後は「せーの」でクラス全員で「ま、いっか!」でおしまい、でした。

 

文字が多い絵本ですが時間としたら8分ほど、あまり長くありません。

内容も難しいものではないので低学年から楽しめると思います。高学年だとノリのあまりよくないクラスだと読み方によってはしらけてあまり響かないかもしれません。

 

同じような前向きな絵本として有名なのは「ねこのピート」シリーズかな。

ねこのピート だいすきなしろいくつ

ねこのピート だいすきなしろいくつ

 
ねこのピートだいすきなよっつのボタン

ねこのピートだいすきなよっつのボタン

 
ねこのピート はじめてのがっこう

ねこのピート はじめてのがっこう

 

アメリカではたくさんシリーズが出てるけど日本で翻訳されてるのはまだこの3冊みたい。最後のページに簡単な楽譜が付いてるので、一緒に歌うのも楽しい絵本です。 

 

「とりになったきょうりゅうのはなし」

科学系の絵本で最近のお気に入りはこれです。

とりになった きょうりゅうのはなし (かがくのとも絵本)

とりになった きょうりゅうのはなし (かがくのとも絵本)

 

大人がゆっくり読んで5分ちょっとくらいの短い絵本ですが、さすが福音館、な丁寧な起承転結、かがくのとも絵本らしい丁寧な言葉選び。

 

科学系が好きそうなにおいのする教室にいったときに選ぶ絵本です。低学年から高学年まで、どの年齢の子に対しても使えるんじゃないかな。 

 

この絵本の良いところは、恐竜が現存する鳥にリンクしていくところ。恐竜がとても好きな子とそうでない子の知識や関心の落差はとても大きく、興味がある子はよく知ってるけどまったく関心のない子も教室の中にはたくさんいたりします。そんな子たちにとって「恐竜の絵本」というと興味のないつまらないものに感じられるかもしれませんが、読み進めていくうちに自分たちの日常生活のなかにいる身近な鳥たちの絵が出てきます。6500万年前に絶滅して自分たちには無縁だと思っていた生き物が、実は今もこの地球上で生き続けている、教室の外でいま鳴いているあの鳥も元は恐竜だったのかもしれないよ、というと途端に子供たちにとって恐竜が身近なものになっていく、そんな発見に繋がる絵本です。

 

時間があまったときは絵本のなかに出てくる鳥の話をします。

挿絵に出てくるヒクイドリ、「見たことある?」と聞いて手を挙げる子はあまりいません。調べてみたら日本でも数カ所の動物園にしかいないみたい。近くで見られる場所を伝えて、興味があったら行ってごらん、ヒクイドリを見ると「この祖先が恐竜だったのか」というのがよくわかる骨格や足の形をしているよ、と話したり、教室の窓から見える猛禽類や羽毛が綺麗なオシドリの話をしたり。

 

恐竜の絵本はたくさん出ているけど、まずお勧めな一冊です。

 

おわりのおまけ

毎回絵本バッグに入れておいて時間がちょっと余ったね、ってときに読む一冊が「もうぬげない」

もう ぬげない

もう ぬげない

 

 3分くらいで読める短い絵本ですが子供たちに人気です。

低学年なんてパンツが見えたところでもうそれだけでどっか〜んです。平和だなぁ。

 

今日は最近のお気に入り数冊ご紹介でした。

子供の通う学校でボランティアに参加し始めたらあちこちから声がかかり始めて市内の学校あっちこっち呼ばれて行くようになって、学校ごとの雰囲気やカラーの違いも見えてどんどん面白くなってきているスズコです。

「ほしいものリスト」から絵本が届いた日

昨日の午後、ちょっといろいろあって凹んでいたところに配送業者さんがやってきて、Amazonの荷物を2つ、受け取りました。

1つは私が自分で頼んでいたもの。もう1つはなんだろう、と包みを開けたら先日公開した「スズコのほしいものリスト」に入れていた絵本が2冊。

初めてのことだったのでとてもビックリして包みの中を色々と見ましたが、贈り主がどなたかわかるものは入っていないようでした。

 

 

いただいたのはこの2冊

たこやきのたこさぶろう: ぴっかぴかえほん

たこやきのたこさぶろう: ぴっかぴかえほん

 

 

そりゃあもう いいひだったよ: ぴっかぴかえほん
 

 

どちらも小学館から今年の始めに刊行された「ぴっかぴかえほん」シリーズのものです。

 

気持ちが沈んでいて、最悪だ…とどん底に落ちていた心境のときにちょうど目に入った「そりゃあもういいひだったよ」というタイトル。ぬいぐるみのクマがいろいろな小さなうれしいを綴っている絵本を開いて、目の前のしんどいことにとらわれて周りが見えなくなっている自分が情けなくなってきました。

 

今日を「絵本が届いたいい日」にしたい。

 

そう思って、気持ちを沈ませていた原因について打開するための手を打とうと重い腰を上げることができました。私にとっては一つの転機になった絵本、大事にします。ありがとうございます。

 

さて、今日は届いたばかりの2冊を含む数冊を手に5年生の教室にお邪魔してきました。

 

まず、たこさぶろうを。

 

次に、マック・バーネットさんの「サムとデイブ、あなをほる」を。

サムとデイブ、あなをほる

サムとデイブ、あなをほる

 

 

そして、荒井良二さんの「そりゃあもういいひだったよ」を。

 

実は読み聞かせを始める前に少し気になることが教室で起こりました。

恐らくは多動の特性がありそうな男の子が一人、開始前に教室をうろつきながら私に話しかけてきておしゃべりをしていました。そこへ後ろから別の男の子がその子の特性を揶揄するような発言をし、私と話していた男の子はそれに怒ってその子に手を挙げようとしました。実際に触れたかどうかは確認できない程度でしたが、やられた方の子も揶揄を続けて、お互いに言い合いになっていました。教室の後ろから担任の先生が入ってくると、揶揄していた子たちは黙ってすっと席に着いたのでそのまま進めましたが、言われた方の子は落ち着かない様子でぶつぶつと文句を言い続けていました。

 

「そりゃあもういいひだったよ」を読み終えたとき、毎日の中で意識しないと気づかないけどうれしかったなぁって思うことがあることあるよね、って言ったら、その子が「いいことなんてないよ」と言ったんですね。「毎日いやなことだらけだ」と。

 

恐らくは発達障害だろうその子が、どんな毎日を送っているのかとても気にかかりました。そしてその子の周りの子たちが、どんなふうにこの子との学校生活を受け止めているのかも、気にかかりました。

 

私はただの読み聞かせボランティアで、彼らのそこには踏み込めません。

 

そうだね、いやなことばっかりのこともあるよね。おばちゃんも昨日とてもいやなことがあってね、でもそのときに突然欲しかった絵本が届いてとてもうれしかったのね。と絵本を贈ってもらったことを話したら、子供たちも興味津々で聞いてくれていました。

 

些細なことをうれしいと思えるといいねってこと、小さな綺麗な小石をひろったり、トンビ以外の猛禽類を見つけたり、風が気持ちよかったり、誰かがちょっと優しくしてくれたり。

 

いやなこともいっぱいある毎日だけど、うれしいことを見つけたときにその日が「そりゃあいいひ」になることもあるかもしれないなぁ。そう思えるような、そんな家庭環境が、そんな学校生活が、子供たちみんなに用意されていたらいいのになぁ、とそんなことを思いながら、5年生の教室を後にしました。

「よみきかせ」だけど、踊ろう!

今日は「踊れる絵本」のご紹介。

本当は真冬に紹介したかった本なのだけど、更新をサボっていてもう春がそこまで来てしまいました…

 

でも先日の読み聞かせの日は小さな雪がちらつく寒い寒い朝だったので、この本を持って教室へ。

だいおういかのいかたろう (ひまわりえほんシリーズ)

だいおういかのいかたろう (ひまわりえほんシリーズ)

 

2人組の絵本作家、ザ・キャビンカンパニーさんの「だいおういかのいかたろう」。独特の作風で描かれる絵が印象的な絵本です。この絵本、なにがいいって「踊れる」んです。

寒い冬に湖で凍り付いてしまったいかたろうをこどもたちが助けるお話。お礼にといかたろうが教えてくれるのが、イカダンス。

 

ゆっくり読んでも時間は5分くらいで終わるお話なのだけど、後半にはさまっているイカダンスのページになったところで「よし、一緒におどろう〜〜〜!」と立って広がってもらって。

 

ダンスは簡単。歌も抑揚があまり無く難しくないしゆっくり踊れてふりも覚えやすいので、1回やれば子どもたちはすぐに自分のものにしてしまいます。

 

キャビンカンパニーさんたちのすごいところはこれ…

 


いかたろうのイカダンス

 

イカダンスの動画があるんです。作家自身が動画を自作して発信しているという新しい取組み…じゃないかなぁ。

この中で作者の阿部さんと吉岡さんがアトリエにしている由布の小さな廃校の前で実際にイカダンスの解説をしてくれるというなんとも豪華な。

 

動画で予習していけば読み聞かせの場でもばっちり踊れる、はず。

ぽっかぽっかしてきた♪ のところで頭をポカポカなぐる仕草をするようアドバイスするのがポイントです。あとは決めポーズをかっこ良く!

 

先日の一年生の教室では時間が少し余ったので3回くらい子どもたちと踊ってみんなでポカポカになって大笑いしました。幼児や低学年はめっちゃ食いつくと思います。

 

キャビンカンパニーさんの絵本×動画コラボは他にも

 

はみがき あわこちゃん (ひまわりえほんシリーズ)

はみがき あわこちゃん (ひまわりえほんシリーズ)

 

 「はみがきあわこちゃん」のはみがきマーチ(これは何が秀逸って、動画が3分間あるんです。家で歯みがきをするときにこの動画を流せば終わりまでに3分きっちり磨けてしまうという!素晴らしい!)


あわこちゃんの はみがきマーチ

 

ほこほこのがっこう

ほこほこのがっこう

 

「ほこほこのがっこう」の校歌、など…。 


ほこほこのがっこう 校歌

 

絵本の世界と音や映像がリンクしていく、自分も一緒に踊れる、一緒にはみがきできる、一緒に歌える、という素敵な仕組み。

 

一緒に歌える、というコンセプトだと

ねこのピート だいすきなしろいくつ

ねこのピート だいすきなしろいくつ

 

 「ねこのピート」も譜面が巻末についていて「歌える」絵本だなぁと思います。

この絵本は同じメロディで歌詞を少しずつ変える形でお話が進んでいくので、最初は読み手だけが歌っていてもだんだん子どもたちも一緒に歌い始めたりすることも。

 

子どもたちの中には「おはなしのときは静かに」って指導されているのを守ろうとして制してくれたりするケースもあるので、その辺は場の雰囲気やクラスの空気に合わせて臨機応変に対応してます。あちこちで歌い始めて収集がつかなくなりそうなときも、すこし間を空けてから大きめの声で次の言葉を出すとすっと静かになったりも。

 

ずっと静かにして一方的に聴かねばならない、っていうのは私もなんだか堅苦しくてしんどくなってしまうので、歌ったり踊ったりしながら楽しい時間を作るには…とよくあれこれ探しています。

「女王さまの影ー動物たちの視覚のはなし」〜大人数向けの読み聞かせに

3年生の教室に、先日発売されたばかりの新しい絵本を持って行きました。

女王さまの影―動物たちの視覚のはなし

女王さまの影―動物たちの視覚のはなし

 

 

一見おとぎ話のような想定ですが、中身は立派な科学の本です。

舞台となるのは中世のヨーロッパを想起させるイメージのとあるお城。表紙の右側に描かれているお城の主である女王さまが開いた舞踏会で、盗難事件が起こります。女王さまの影が盗まれてしまったのです。

 

事件の捜査に乗り出したのは女王さまに雇われている探偵のシャコ。 

女王さまに突進していた!と疑いをかけられたヤギは「わたしには真正面においでになる女王さまが見えなかったのです。わたしにとって真正面は死角です。」と弁明。

こんなふうに宴に招待されているサメやトンボやダイオウイカなどさまざまな生き物たちが自らにかけられた容疑を晴らそうと次々と証言をします。そしてその証言それぞれが、それぞれの生き物の視覚の特徴に基づいて繰り広げられていく形でお話が進んでいきます。

 

この本を始めて手に取って中をざっと流し読みしたとき、大人数向けの読み聞かせに適した本に出会えた、と思いました。

 

小学生向けの読み聞かせの選書で悩む理由の一つに、人数の多さ、興味の多様さがあります。中学年以降だと特に、自分の好きなもの、興味のあること、逆に興味がまったくないこと、どうでもいい分野というのが個人のなかで割とはっきりと線引きが見え始めてくるのかなと観察していて感じます。

 

科学の本が好きな子もいればまったく興味の無い子も、虫なんて嫌いという子もいる。

その多様な環境の中で「虫」だけに特化した絵本を選ぶことは興味のある子は喜ぶけれど一部はまったく反応しないというリスクを背負うことにも繋がってしまうかもしれない。もちろんその読み聞かせの経験を通して興味の無かった分野に目を向けるきっかけにして欲しいという大人としての希望のようなものもあるのですが…。

 

この絵本が秀逸なのは、そのリスクをうまく回避する構成になっていること。

 

科学好きな子の目を引く登場人物たちとそれぞれの視覚についての解説。

シャコ探偵が容疑者から次々と話を聞いて真犯人を突き止めようとする推理小説のような要素に興味を持つかもという要素。

これはおまけ的ですが「女王さま」「お城」「舞踏会」 という、小さい子たちが割と好きな要素も含まれている。

 

それぞれの生き物が詳細まで丁寧に描かれたシベール・ヤングさんの版画、日本の絵本にはあまり見かけ無い印象的な配色。絵画としても楽しめ、また生き物の形態を学ぶための教材としても秀逸です。

読み物としては各ページの右端に添えられた視覚についての短い註釈と巻末の丁寧な説明のページで科学的な興味を持った子が更に学ぶためのきっかけとしても役立てられそうです。

 

そして、付属的ではありますが「見えているものが皆同じではない」という道徳的な話に繋げる導入としても使えるなと。

 

今回は3年生の教室で読んだのですが、その場でも、ここに描かれている生物それぞれの物の見え方が違うように、隣同士の君たちの見えている物がそれぞれ同じとは限らない、特定の色が見えないという障害もあるし、沢山の視覚的情報を取り込み過ぎてしまうという特性を持つ人も居る。30数名いるこのクラスのお友達も、読み聞かせに来ている私も、先生も、みんなそれぞれ違う世界を見ているのかもしれないよ、というお話をして読み聞かせの時間を締めました。

 

限定的な内容に特化した絵本も魅力的ですが、大人数への読み聞かせに使うのに難しいことも。そんな中でこんな多彩な内容を持つ絵本にはなかなか出会えないんじゃないかなと思います。

 

科学的な内容としては小学校中学年〜高学年くらいに適しているようではありますが興味を持つためのきっかけを持ってもらうという程度であれば幼稚園児や小学校低学年に読んでも面白いのではないかと思います。

今後もいろんなクラスでの読み聞かせに活用出来そうな、そんな一冊です。

鼻をほじほじ、ストローぶくぶく。「りゆうがあります」

2年生の教室におじゃました、先日の読み聞かせの時間。

持って行ったの「りんごかもしれない」や「ぼくのニセモノをつくるには」のヨシタケシンスケさんの「りゆうがあります」

 

主人公の男の子は鼻をほじほじ、イスをがたがた、ストローでぶくぶく、ストローをがじがじ…それをお母さんに咎められて「理由があったら鼻をほじってもいいんじゃないか」と考える。。

 

お母さんと主人公の男の子の会話の部分もあって読み聞かせをするのはちょっとむずかしいのかな〜と思ったのですが、内容的に絶対低学年にウケる!と思ったので持って行ってみました。

 

絵本を広げている手と反対の手で、指をがじがじしてみせたり、先生のイスに座ってがたがた貧乏ゆすりをしてみせたり。ちょっと演技を入れながらの読み聞かせ。こどもたちは鼻ほじほじやストローぶくぶくの荒唐無稽な理由にいちいち大笑い。

大きな声でつっこみを入れる子もチラホラでてきたところで一人の子が「〜〜くんうるさい!」と怒って言ったので「だいじょうぶだよ、おばちゃん、もっと大きい声で話すから、聴こえる?」ってお返事。

 

読み聞かせをしていると、これ、たまに遭遇する場面です。

合いの手を入れてくれる子やネタに対して突っ込みをいちいち入れてくれる子がちらほら居る中で、それに対して怒る子、注意する子、指摘する子。それが元でケンカが起こったことも過去にありました。(そこまで至っちゃったことは場を仕切る私の力不足だったなぁと後からすごい反省しました…)

 

読み聞かせは静かに聴くものなのか、声を出して楽しんでもいいものなのか、それは答えの無い課題なのかもしれません。40人ちかい児童が一斉に聴いている場なので全員がみんな納得したり楽しめたりすることはそうそうないのかもしれなくて、だからうるさいなぁと思う子も、黙っとかなくちゃいけなくてしんどいなぁいやだなぁと思う子も、どっちもを満足させることは難しいのかもしれない。

 

こどもたちも「読み聞かせのときはおしゃべりはしちゃいけない」と思っている子もいるみたいだし、先生がどんな風に指導しているのかも私にはわからないので、なにが正解なのかはよくわからないのだけど、私は楽しい絵本を読んでいるときは楽しくなって声を出しちゃう子がいても良いと思うので周りの子が嫌にならない程度にその子とのやりとりも含めての読み聞かせの場にしようと思ってのお返事でした。

 

今のところはまだあまり無いけど、静かに聴き入って欲しい本を読むときに口が過ぎる子が居たら注意をしてしまうこともあるのかもだな。落ち着きが無い子の行動はスルーしたり台詞を大きめの声で読むことで注意を惹き付けたりして静かにするよう促すことはたまに。

 

爪噛みの癖があるのかな、聴き入りながら口に手をやっていた女の子と目が合ってお互いにイヒヒって笑っちゃったりするひとこまも。

 

次は1年生なのでそっちにも持って行ってみようかな〜と考えている絵本です。

 

時間が余ったのでもう1冊は夏の絵本「キャンプ!キャンプ!キャンプ!」(Amazonには中古しか無いみたいだから廃盤になったのかな)娘が好きな、夏のキャンプの1日を描いた絵本です。こどもの絵日記のような「ぼく」の視点から書かれた文章、特に目新しいこともないしなんてことないキャンプの様子が描かれているのですが、なぜか子供たちに何度も読んでとせがまれる1冊です。

 

 ヨシタケさんの著作をご紹介。どっちも、年齢により楽しみ方がそれぞれありそうな、そんな絵本です。

りんごかもしれない

りんごかもしれない

 

 

ぼくのニセモノをつくるには
 

 

マック・バーネットさんという絵本作家さん。

以前録画しておいた番組をぽつぽつ消化しているときにみた、NHK「スーパープレゼンテーション」の3.11放送分。アメリカの絵本作家マック・バーネットさんの回でした。

 

3月11日放送 | これまでの放送 | スーパープレゼンテーション|Eテレ NHKオンライン

 

「アナベルとふしぎなけいと」を見かけたことはあったのですが、ちゃんと読んだことはなかった作家さん。早速取り寄せた一冊が「サムとデイブ、あなをほる」

 

サムとデイブ、あなをほる

サムとデイブ、あなをほる

 

 届いてすぐにうちの子たちに読んであげたらどはまりの三男。何度も繰り返し読んでくれとせがまれました。

 

毎晩毎晩寝かしつけ絵本として登場していたこの本を、先日1年生の読み聞かせに持って行きました。

 

お話もさることながら、この絵本のキモはジョン・クラッセンさんの絵。

柔らかい色調で少し細かいので遠くでは見えないかもと思って、後ろの方は見えなかったら前に来ていいよ、とあらかじめ移動してもらいましたが、空間を上手に使ったイラストに子どもたちは食い入るように見入っていました。

 

掘り進めて行く過程で文字にはあらわれないけど見えているあんなことやこんなこと。一生懸命掘っているのに宝物になかなか出会えないサムとデイブ、子どもたちは「あーーー!」「あそこーーーー!」と指を指して大きな声をあげてくれ、ページをめくるごとにその声は大きくなっていきます。

声はあげても周囲と話すわけではなく気持ちは本に向かってくれているので、こういう感じで声を出すのは読み聞かせの上で邪魔になることもなくむしろ雰囲気が良くなることが多いような気がします。おとなしく座って聴いている子の邪魔にならない程度の雰囲気になるよう、あまり声が大きい子が居るときはおしゃべりが続かないような配慮をすることが多いです。直接注意してしまうとお話が途切れてしまって空気が途切れてしまうので、読み進める言葉の感覚を少しあけてその子の発言が途切れるのを待ったりすることが多いかな。

明らかに不適切に大きな声で揶揄したり調子に乗って騒ぎだしたりする子が居たら、無視です。反応したら調子に乗るから。でも物語にのって反応を示してくれてる子には読みながら言葉を返すことも。

 

私がこの絵本の中で好きなのは、飲み物が水筒に入った「チョコレートミルク」と、おじいちゃんのハンカチにつつんだ「どうぶつビスケット」。小さい頃に憧れた、絵本のなかのいろんな食べ物や描かれた外国の風景、物語の醍醐味はここだなぁと思うのです。今回の読み聞かせの途中でも「チョコレートミルク!?」って反応してくれた子がいて、なんだかうふふっとなったのでした。

 

マック・バーネットさんの絵本で気になっているのはこれ。

 

Billy Twitters and His Blue Whale Problem

Billy Twitters and His Blue Whale Problem

 

 ママに叱られるたびに脅しとして「クジラを買ってくるわよ!」と脅されていたビリーの家に本当にクジラがやってきてしまう、というお話らしいのだけどどうやら邦訳はされてない模様。番組の中で紹介されていたのですが、カバーの裏には応募すればクジラがご自宅に届きます!っていう宛先が書いてあるらしい…!

取り寄せて、読み聞かせで使いたいなぁ。

洋書でも自力で和訳すれば読んであげられるのは、読み聞かせの楽しみの一つかも。

 

余談ですが、↑のクジラの応募先、ハガキ?を送るとマック・バーネットさんから「税関の関係でクジラをお届けできなくなりました」という本格的な嘘をついたお手紙が届いたり、クジラと話せる電話番号が教えてもらえたりするというお話も番組内で紹介されていました。

クジラの留守番電話に定期的に電話をかけて来てくれる男の子の声が流れていたのだけど、クリスマスの挨拶を、とか、おばあちゃんのことが嫌いになった話を、とか、たまにかけてきて自分の事を自分のクジラに話してくれる、こういう、思い出して電話をかける先があるのって、なんかいいなと思いました。

 

私が、ふらっと立ち寄れる文庫がいつか自宅で開けたらと思っているのもそういう、時々思い出して関われる先になりたいからかもしれません。マックさん主催の作文教室も、教室への入り口が「タイムトラベルしてきたコンビニ」という不思議なコンセプトで海賊用のグッズが売られていたり店員さんが色んな時代のコスプレをしていたり。発想がとっても面白くて、もっと色々知りたいなぁと思う作家さんのひとりです。