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読み聞かせしながら、考える。

読み聞かせボランティアで読んだ本の紹介と活動のなかで考えたことを綴ります。

「女王さまの影ー動物たちの視覚のはなし」〜大人数向けの読み聞かせに

3年生の教室に、先日発売されたばかりの新しい絵本を持って行きました。

女王さまの影―動物たちの視覚のはなし

女王さまの影―動物たちの視覚のはなし

 

 

一見おとぎ話のような想定ですが、中身は立派な科学の本です。

舞台となるのは中世のヨーロッパを想起させるイメージのとあるお城。表紙の右側に描かれているお城の主である女王さまが開いた舞踏会で、盗難事件が起こります。女王さまの影が盗まれてしまったのです。

 

事件の捜査に乗り出したのは女王さまに雇われている探偵のシャコ。 

女王さまに突進していた!と疑いをかけられたヤギは「わたしには真正面においでになる女王さまが見えなかったのです。わたしにとって真正面は死角です。」と弁明。

こんなふうに宴に招待されているサメやトンボやダイオウイカなどさまざまな生き物たちが自らにかけられた容疑を晴らそうと次々と証言をします。そしてその証言それぞれが、それぞれの生き物の視覚の特徴に基づいて繰り広げられていく形でお話が進んでいきます。

 

この本を始めて手に取って中をざっと流し読みしたとき、大人数向けの読み聞かせに適した本に出会えた、と思いました。

 

小学生向けの読み聞かせの選書で悩む理由の一つに、人数の多さ、興味の多様さがあります。中学年以降だと特に、自分の好きなもの、興味のあること、逆に興味がまったくないこと、どうでもいい分野というのが個人のなかで割とはっきりと線引きが見え始めてくるのかなと観察していて感じます。

 

科学の本が好きな子もいればまったく興味の無い子も、虫なんて嫌いという子もいる。

その多様な環境の中で「虫」だけに特化した絵本を選ぶことは興味のある子は喜ぶけれど一部はまったく反応しないというリスクを背負うことにも繋がってしまうかもしれない。もちろんその読み聞かせの経験を通して興味の無かった分野に目を向けるきっかけにして欲しいという大人としての希望のようなものもあるのですが…。

 

この絵本が秀逸なのは、そのリスクをうまく回避する構成になっていること。

 

科学好きな子の目を引く登場人物たちとそれぞれの視覚についての解説。

シャコ探偵が容疑者から次々と話を聞いて真犯人を突き止めようとする推理小説のような要素に興味を持つかもという要素。

これはおまけ的ですが「女王さま」「お城」「舞踏会」 という、小さい子たちが割と好きな要素も含まれている。

 

それぞれの生き物が詳細まで丁寧に描かれたシベール・ヤングさんの版画、日本の絵本にはあまり見かけ無い印象的な配色。絵画としても楽しめ、また生き物の形態を学ぶための教材としても秀逸です。

読み物としては各ページの右端に添えられた視覚についての短い註釈と巻末の丁寧な説明のページで科学的な興味を持った子が更に学ぶためのきっかけとしても役立てられそうです。

 

そして、付属的ではありますが「見えているものが皆同じではない」という道徳的な話に繋げる導入としても使えるなと。

 

今回は3年生の教室で読んだのですが、その場でも、ここに描かれている生物それぞれの物の見え方が違うように、隣同士の君たちの見えている物がそれぞれ同じとは限らない、特定の色が見えないという障害もあるし、沢山の視覚的情報を取り込み過ぎてしまうという特性を持つ人も居る。30数名いるこのクラスのお友達も、読み聞かせに来ている私も、先生も、みんなそれぞれ違う世界を見ているのかもしれないよ、というお話をして読み聞かせの時間を締めました。

 

限定的な内容に特化した絵本も魅力的ですが、大人数への読み聞かせに使うのに難しいことも。そんな中でこんな多彩な内容を持つ絵本にはなかなか出会えないんじゃないかなと思います。

 

科学的な内容としては小学校中学年〜高学年くらいに適しているようではありますが興味を持つためのきっかけを持ってもらうという程度であれば幼稚園児や小学校低学年に読んでも面白いのではないかと思います。

今後もいろんなクラスでの読み聞かせに活用出来そうな、そんな一冊です。